小学校の卒業文集で “将来の夢”というテーマを選び “学校の先生” か “ワーゲン屋さん” になりたいと書いた少年がいた。その約15年後「ワーゲン屋さん」の方の夢を見事かなえた青年は、その趣味も高じて20年間にわたり仕事として携わり、さらに愛車としてヴァナゴンを乗り続けているオタクだが、そんな彼でもまだまだ知らない謎深いVANAGONの歴史があるそうだ。
今回はそんな謎のT3に迫ってみよう。
南アフリカ製T3ヴァナゴン
南アフリカ?サウスアフリカ?サウスアフリカングリル!はい、そうです。みんなご存知、カリフォルニアンヴァナゴンカルチャーのカスタム代名詞、今や枯渇してしまった丸目4灯のあのグリルの生誕地である。
グリルのおかげでヴァナゴン乗りならサウスアフリカというフレーズはよく耳にするが、欧州でのT3生産が1991年に終えた(一部は1992年)にもかかわらず、実はなんとその後約10年に渡って南アフリカはオイテンハーヘ工場でT3が生産されていたのである。しかし長らく続いたT3の継続生産も供給部品の不足により2002に生産終了が余儀なくされた。ちなみに車両全幅まで伸びたラジエターロアグリル、そのグリル両端に四角のウインカーレンズが装着されていて、丸目4等のサウスアフリカングリルとの組み合わせは世界のT3でもこのモデル以外にないという点でも南アフリカモデルの特徴であった(他に角目のモデルもあった)。他の変更点はグローブボックスが小型化、空調のレバーはスライドではなく丸形ノブになり、真空式のコントロールに変更になっている。
また安全基準の高まりなのか、ダッシュボードには衝撃吸収パッドが全面を覆っていたそうだ。ちなみに自国生産の南アフリカは右ハンドル、フロントワイパーアームの左ハンドル用のマウント凸部分が無い正真正銘の右ハンドル設計である。日本に正規輸入された右ハンドルT3、カラベル/ヴァナゴンはドイツ製造でマルチボディのため、左ハンドル用のマウント凸部分があるのでオーナーの皆さんは確認してみると面白いかも。
特異な搭載エンジン
私たちが良く知っているヴァナゴンの搭載エンジンともずいぶん異なっている。モデル別では高級モデルが「カラベル」と「マイクロバス」貨客兼用で「コンビ」商用バンで「パネルバン」と分かれているが、なんとエンジンは前者2モデルにはアウディ製の2.5L直列5気筒、後者2モデルにはVW製の1.8L直列4気筒が搭載されたというちょっと変わりもの。アウディ製の5気筒エンジンは背が高く、これに対応するためトランクフロアは床上げされ、燃料タンクも85リットル容量へとアップされている。
この2.5Lエンジン搭載モデルは1994年までに19,872台が製造されたと資料に残っている。1995年には2.6Lにアップされたエンジンが搭載されるのだが、現地のジャーナリストはこのモデルが傑出していると評価している。3000rpmで200nmのトルク、5200rpmで136馬力を絞り出し、0-100km/h加速は約14.5秒、トップスピードは160km/h強を出すというパワフルエンジンだったからだ。
数字自体は大したものではないように見えるが、これがあの愛らしいT3から出ていると考えればかなりたいしたものだと考えられる。ちなみに燃費は7.7L/kmくらいだったそうだ。生産終了も間近になったころ、カラベルをベースに最高級グレード「エクスクルーシブエディション」が発売される。先述した2.6Lエンジンを搭載し、セカンドシートは後ろ向き、折り畳みテーブルが備えられたモデルのようで、私たちがよく知っているキャラットのようなモデルだったのだろう。
超希少なシンクロビッグウインドウモデル
これこそ世界的にも超希少といえるモデルがある。タイトル通りビッグウインドウ=大きな窓、を備えたモデルである。南アフリカ工場での生産よりBピラーより後方のサイドのウインドウ、計4つの窓が縦に長いのだ。さらにDピラーに備わる通気口もカタチが異なっている。下記写真で比較してみよう。薄いブルーのT3がビッグウインドウ。白いのがスタンダードだ。しかもビッグウインドウモデルのクォーターガラスはスライド開閉式になっている。
一時期はドイツ製のスタンダードウインドウと混合されたため正確な生産台数は分からないそうだが、シンクロに於いては89台の製造のみという話なので、ヴァナゴンファンであれば実車を見ると興奮すること間違いないだろう。もしどこかに旅行に行かれて見かけた際は、是非写真を撮って送っていただけるとこのうえなく嬉しい。
全世界最後のT3が生産終了、そして悲しい結末が・・・
ついにT3モデルが生産を終える日がやってきた。2002年6月16日、計264,334台が製造された東ケープ州のオイテンハーヘ工場で惜しまれつつも静かに幕を下ろしたのである。
その生産ラインで最後に送りだされた車両はゴールドの「T3 マイクロバス2.6」。このT3は2004年にオイテンハーヘ工場内でOPENしたオートパビリオン(自動車博物館)に展示されることになった。当時の貴重な写真がこれ。その車両のナンバープレートには誇らしげに「LAST T3」と書かれていることがわかる。
しかしながら2年後、南アフリカ中に衝撃をもたらす悲しい出来事が起こってしまうのである。2006年11月、フォルクスワーゲン南アフリカの55周年の記念式典がケープタウンで開催された。その祝賀パーティ会場で展示されていたLAST T3がオートパビリオンへの帰路中に事故にあってしまったのだ。運搬用の積載トラックが横転したためだった。トラックにはT3のほか、1958年と1959年、そして1978年のビートル、1979 年のパサート、1970 年のアウディ90、1973 年のアウディ100S、1975 年のアウディ クーペ、と歴史的な車両が多く積まれていた。
VW南アフリカのゼネラルマネージャー、ビル・スティーブン氏はこう語った。「これは起こりうる最悪の事態です。なぜなら、それらが新しい車であれば交換できたからです。これらの車を交換することはできません。これは私たちにとって大きな損失です。」そして「歴史に名を刻む名車たち。これらと同様のモデルを見つけて復元する」と約束したのである。
私たちの日本ではほぼ見かけることのない南アフリカのT3。現地にとっては、とても広々とした360度のパノラマビューを備えた贅沢な車両で、最大8人の乗客を運搬でき、信じられないほどの実用的なモデルだったという。前出のジャーナリストはこう結んでいる「現代のようなハイテクな安全性と高級な仕上がりではないが、南アフリカのT3は完璧なレトロパッセンジャーであり南アフリカのヒーローであり続けるだろう」。
出典)http://www.vwt3.net/ その他
最後に南アフリカのヴァナゴンのCMをご覧あれ。楽しい気持ちにしてくれます。
出典:YOUTUBE(GR8RUN)
※記事は既知と他の情報源をもとに書いております。詳しく知っている方は是非情報をお寄せください。修正させていただきます※
記事:キノシタ